2月/如月 楽焼と八寸

2月/如月 楽焼と八寸
彩りから質感まで 繊細な料理の決め手となる器

五穀豊穣を願う、縁起物の雀
手で成形する楽焼の形の遊び

思わず笑みがこぼれる愛らしさ。今回高木一雄さんが料理を盛ったのは、雀を模した楽焼の器(島 荷平氏作)だ。旧暦二月最初の午の日を「初午」(はつうま)といい、各地の稲荷神社で初午祭が行われる。稲荷神社には農耕の神様が祀られており、初午詣でその年の五穀豊穣を願った。雀がちょっとふっくらしているのには理由がある。これは「福良雀」(ふくらすずめ)といい、豊作のあまり、腹が膨れるほど田の米をついばんだ雀を表している。豊作を願った縁起物だ。余談になるがもう一つの椀の写真もご覧いただきたい。「これには寒い季節なので蕪蒸しなどを盛ることが多いですね」と高木さん。料理を食べ終えると器の底に福良雀が表れる仕掛けだが、それだけでは面白くないと、塗り師に依頼し、蓋の表に稲穂、蓋の内側にも福良雀を描いてもらったそうだ。器でも季節感を楽しんでもらいたいという、主のもてなしの気持ちである。ところで、稲荷神の使いとされるのは、キツネ。稲荷神社を訪ねる際はキツネの好物、油揚げや稲荷寿司を供える人も多い。初午の時期の『京料理たか木』の八寸には、小さな稲荷寿司が、豊作を願って俵型に整えて積まれている。そしてもう一つ、手前の茶色い料理は実は「雀の照り焼き」だ。古人はこの時期、福良雀を思いながら、実際には稲作の外敵となる雀を焼いて食したという。まるで相反する行動のようだが、こうして心から豊作を願っていたのだ。そして脇に添えた小さな器は「つぼつぼ」という。これは初午祭の参道で売られていた土産に由来する。参詣の記念にと買って帰った。「娯楽のない時代ですから、こうした年中行事や縁起担ぎ、器の形状や季節の食が人々の暮らしの中の大きな愉しみだったのです」。


写真/塩崎 聰 Photographs by Satoshi Shiozaki

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