6月/水無月 氷室の節会:京塗りと先附

6月/水無月 氷室の節会:京塗りと先附
彩りから質感まで 繊細な料理の決め手となる器

氷が貴重な時代の節会にちなみ
水無月豆腐を京塗りの銘々皿に

文明の利器のなか暮らす我々には想像しがたいことだが、氷が手に入らない時代に少し思いを馳せてみて欲しい。時は平安、旧暦の六月一日(現代の七月一日)は、氷室の節会(ひむろのせちえ)といって、帝に氷を献上する儀式が宮中で執り行われる日であった。暑くなる折、冬にできた氷を貯蔵していた室から取り出して大切に運ぶ。電気がない、冷凍することができない。「コンビニエンスストアに買いに行けば?」という具合にはいかない。氷は貴重なものだったのだ。その氷を口にして暑気払いをした。

帝に献上するものゆえ、一般庶民はもちろん氷にありつくことなどできない。この頃に京の町の人々が楽しんだのが、「水無月」という和菓子。三角形の外郎(ういろう)の上に、小豆を載せた物。「形は氷の破片に見立てて、小豆(豆)は魔を滅するという意味を信じて魔除けとして食べられたものです」と高木一雄さん。今でも京都の各和菓子店では6月になるとこの「水無月」というお菓子が店頭に並ぶ。

このお菓子の「水無月」を料理にしたのが写真の水無月豆腐だ。この時期の京料理店ではよく提供される献立のひとつ。『京料理たか木』では山芋で作っている。豆腐の下にあるゼリー状のものは味付けしただしを固めた物。これも付着した小さな氷を表している。その下にウニを忍ばせ、上から青柚子の皮を散らす。おいしくて涼やかな先附である。

盛り付けた器は、京塗りの銘々皿(めいめいざら・取り皿のこと)。写真のように『京料理たか木』では豪華絢爛な椀も多数所有するが、漆ははがれやすく、傷もつきやすい。繊細な器ゆえ手入れが大変だ。ただ、手に取ると、艶やかで得も言われぬ存在感がある。蒔絵(まきえ)で表す絵柄模様の美しさは、日本の工芸技術の高さを物語っている。ゆえに値も張る。「高価で手入れも大変ですから、最近では、椀物を出さない日本料理店が増えてきて、残念に思っています」と高木さん。

産地としては京都や石川の輪島が有名。「僕の印象としては輪島がクラシックで真面目、京塗りは華やかで繊細、色っぽい器が多いように思います」。塗り直したり、好みの絵を加えたり、修理やカスタマイズしながら長年使うことができる器なので、大切に一つずつでも手にしてみて欲しいと語る。


写真/塩崎 聰 Photographs by Satoshi Shiozaki

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