9月/長月 重陽:織部焼と造り

9月/長月 重陽:織部焼と造り
彩りから質感まで 繊細な料理の決め手となる器

9月9日は、重陽の節句
菊と着せ綿の艶やかな一品

日本料理の献立を考える上で、五節供を大切にしている、高木一雄さん。これまで4度、節会の器と食を紹介してきたが、ついに最後の節供、陰暦の9月9日、重陽の節供がやってくる。

「9」が並ぶこの日がなぜ祝い日なのか。中国の陰陽思想ではあらゆる物事を陰陽に分けて捉え、割り切れない数字の奇数を陽数としてきた。その中の最大数である「9」が重なるこの日を、めでたい日として祝ったのだという。

またこの日は、別名菊の節句とも呼ばれる。『京料理たか木』ではコースの始まりに、菊の花びらを浮かべた酒を振る舞ったり、菊花のゼリーよせなどの料理を出す。器も花や葉にちなんだものを用いる。

重陽の献立はヒラメの平造りの着せ綿(きせわた)見立て。着せ綿とは、陰暦9月8日に、本物の菊の花に綿を被せてひと晩屋外に置き、綿に夜露、朝露を染み込ませる。翌9日、その湿った綿で身体を清め、長寿を願ったという江戸時代の風習を表した料理だ。

ちなみに先に述べた菊酒も、中国では漢代にすでに、飲まれていたと推測されている。菊の香りが移った酒はその芳しい香りと花の気品の高さから、邪気を払い寿命を延ばすと考えられていたのだった。

さて、今回の器は織部。十七世紀初頭、海外との盛んな交易により、日本料理のバラエティーが飛躍的に富んだ、慶長時代に誕生した焼物だ。「この土のぽてっとした風合い、秋から冬にかけて使いたくなる器ですね」と高木さん。節句にふさわしい、開いた扇をかたどった、扇面(せんめん)と呼ばれる器を出してくれた。このように形状や模様が多種多様であることも、織部焼が誕生した当時の華やかな時代・文化を象徴している。

織部焼には他にもさまざまな種類がある。左の深いグリーンの平皿は銅緑釉をかけた総織部。鉄分の多い赤土を使う赤織部、白い土と赤い土をつなぎ合せる鳴海織部、黒地に白抜きの模様がきりっと光る黒織部。白土に鉄絵を施した志野織部などがある。

めでたい形で、どっしりとした存在感の器の中に、たっぷりの菊花を散らした、大根のつま。その下、ほのかにヒラメの造りが見える。艶めかしくふわりと柔らかな風情が、秋の夜露ににじむ月夜の景色を思わせる。


写真/塩崎 聰 Photographs by Satoshi Shiozaki

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