Vol.02 ~イ・ヴェンティチェッリの世界~

似 Resembles

Vol.02 ~イ・ヴェンティチェッリの世界~ 似 Resembles

「まずは全部食べてテーマの文字当ててみてよ」と、やんちゃ坊主のように話す浅井卓司シェフ。串に刺した砂ずりとサザエとトリッパ(牛の第2胃)……「何か気づくやろ?」「さあ?」「食感が似とうねん」「そうかなるほどね」。この人の発想を掴むのは無理だ。食感が似ているものを集めても、味はまったく違うのでまとめる要素が必要となる。ひとつはサザエの肝のソースと丸ごとスモークした金柑。この2つの苦味が素材をつなぐ。もうひとつは、各素材をスモークするときに纏わせたローズマリーの香りだ。目に見えない「香り」でつなぐ皿。なかなかのロマンチストだ。

絆 Bonds

Vol.02 ~イ・ヴェンティチェッリの世界~ 絆 Bonds

ソースを塗ってないお好み焼きに見えるのは、ポレンタ粉(トウモロコシを粉状にしたもの)を生地にしたイタリア版のおやき。中にはグアンチャーレ(豚ほほ肉の塩漬け)、ネギ、キャベツが入った素朴な味だ。トスカーナ州の料理で「ポレンタ・イン・カテナータ」といい、煮込み料理などの付合せとして添えられる。その周りを黒豆のピクルスがぐるりと囲む。東日本大震災がきっかけで、日本中が「絆」の大切さを思った2011年。同じ年イタリアは国家が統一されて150年の節目を迎えた。イタリアの食文化を伝える日本人として、2つの国の絆を描いた。

祭 Festival

Vol.02 ~イ・ヴェンティチェッリの世界~ 祭 Festival

全くもって浅井さんらしくない料理だ。この企画のために、普段は絶対作らない一皿を作ってくれた。この人のサービス精神はこういうところにある。そしてその観点からいえばとても浅井さんらしい一皿だ。「ちょっと背伸びしすぎた?」と照れ笑いしながら自分の料理の世界を崩すことを厭わない。彼の愛情は極端だし濃厚だ。イタリアでは3月8日を「フェスタ・デラドンナ」といい、男性から女性へミモザの花を贈る習慣がある。レモンのリゾット、卵の白身の上にレモンの皮とナッツ、卵の黄身にトリュフを添えて。春の訪れを告げるミモザの花のイエローを描いた。

痺 Piquant

Vol.02 ~イ・ヴェンティチェッリの世界~ 痺 Piquant

これは「ピータンのカルボナーラ」。ご覧の通りパスタの上にピータンが載り、仕上げに振る四川山椒の香りと舌にびりびりくる辛さ。そして中国料理に用いられる「腐乳」(フールー・豆腐を発酵させたもの)も入り、独特な風味。全体的に中華の香りだが、食べ終えると「ああ、これはカルボナーラだ」と納得させられるから不思議だ。ローマの伝統的なカルボナーラのレシピをベースに中国食材を取り入れた。奇抜に見えるが、舌で感じる旨みの枠はイタリアのカルボナーラとほぼ同じ構成なのだ。強烈な個性で、一度食べると癖になる味。シェフの料理を象徴する一皿だ。

この店の料理はたいてい茶色くて、盛付けは豪快。見た目の美しさではなくて「味で勝負だ!」という無骨さが食欲をそそる。そしてイタリア料理店なのに、厨房からはしばしば予想を裏切る香りが漂う。先の中国食材や、アミエビの塩漬けのアジアンな香り、ある時はリゾットの上に滋賀の鮒ずしが載っていたこともあった。何が出てきても驚かないでほしい。すべては出鱈目ではなくて、イタリア食文化を熟知した上で、それを分解し、他の国の食材で再構築した皿なのだ。何も以てしても着地点はイタリア。そんな力技を発揮できるシェフは、日本中探してもそうはいない。武闘派にして誰よりも繊細な料理人が、独創的な料理を作っている。


写真/太田恭史 Photographs by Takashi Ohta

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