Vol.03 ~料理屋 植むらの世界~

清 Pure

Vol.03 ~料理屋 植むらの世界~ 清 Pure

日本には世界各国の料理が食べられるレストランがあり、そのどれもがおいしい。雑食と言われる我々日本人だが、自国の食をもっと大切にしてもいいのではないかと思う。日本料理の歴史は世界に誇れる文化だ。たとえば何の変哲もない大根やニンジンを、こんなに綺麗な花に仕立てる。日本人が考えた、食卓を楽しくするための知恵だ。繊細かつ高度な技術。『料理屋植むら』では献立の中にこうした彫り物を入れている。指導してくれた日本料理の先輩に尊敬の念を込めて、とのこと。「彫り物は雑念があると失敗するんで、無心で」と植村さん。清い心で命いただく食材に向き合い、包丁を入れる。料理人の基本だと思った。

咲 Brossom

Vol.03 ~料理屋 植むらの世界~ 咲 Brossom

『料理屋植むら』には、故郷の香川県の酒蔵に特別注文しているオリジナル銘柄「植むら」という名の日本酒がある。「酒もひとつの料理だと考えている」と話す植村さん。瓶から酒器に移したら、それは料理だと。単体で飲んで旨いもの、何も加工していない無ろ過生原酒が最も好きだと話す。店では、酒を愉しんでもらうための徳利や杯を多種取り揃えている。実際に、同じ銘柄の酒でも器によって味がいっそうひき立つケースがある。そんな風に酒が飲み頃を迎えることを「花が咲く」と表現することがある。折しも季節は花見。有田焼の杯の中には桜が描かれている。酒を注ぐことで花が咲く。美しい四季折々の酒器も料理屋での愉しみだ。

絢 Gorgeous

Vol.03 ~料理屋 植むらの世界~ 絢 Gorgeous

この八寸で心を掴む。滋賀県の窯元に特注して焼いた器は、運ばれたときは1メートルほどの幅の大きな一枚板だが、人数分に器が切り離され、各人が食べられる仕立てになっている。「わぁ綺麗」と歓声が上がる、豪華で美しい八寸は、植村流プレゼンテーションの真骨頂だ。見た目の美しさだけでなく、料理の一品一品に確かな仕事ぶりが光る。桜餅に見立てたのは鯛の子、竹の皮を覗くと中に筍の木の芽和えが隠れていて、菜の花の昆布締めにカラスミをあしらって花を咲かせた。ふきのとうは白扇揚げに、鰆の柚庵焼き、つくしを乗せたはまぐりのちらし寿司。春が来た。花見愉しい、春の野を描いた。

颯 Dragon

Vol.03 ~料理屋 植むらの世界~ 颯 Dragon

器も日本料理において大切な要素だ。植村さんは毎年その年の干支を描いた輪島塗の椀を買い足している。今年は年男ということもあり、ひと際思い入れの強い「龍」の器に料理を盛った。昇り竜のように飛躍していく、縁起のいい器。漢字を「龍」でも「昇」でもなく「颯」としたのはご子息の名前が「颯之丞」(りゅうのすけ)だから。ちなみに「咲」も「絢」もお子さんの名前。(「家族想いだって書いといてよ!」とひと言多いのが植村さんだ)。弥生の椀物は、ひな祭り。ひし餅の色は下からグリーン、白、ピンクの順番。これは諸説あるが、緑の大地から雪を破って芽を出し、地上で花が開く様を描いたとも。緑の吸い地は鶯豆で表現した。

常に軽口を叩き「有名になりたい、人と違うことをやりたい」と明言する植村良輔さん。今回の撮影時には「俺は人間国宝を目指す!」と笑っていた。(実現性はともかく大志を抱いているのだ)。そんな人だから書き手として興味が沸いた。生意気な発言の分、自分を追い込み人一倍努力する姿も見た。それは丹精で魂の籠もった料理に表れている。撮影時、八寸を盛り付けている真剣な表情には凄みすら感じたし、見ていて涙が出そうになった。瞬間にかける集中力。ただただ純粋に、味わい、美しさ、季節感、どうすればお客様に喜んでいただけるのかを考えている。思いは料理にのって伝わる。この先この人の料理がどんな風に変化していくのか、見てみたい。人間国宝はどうかと思うが、日本料理界の未来を引っ張っていく一人になるのは確かだ。


写真/太田恭史 Photographs by Takashi Ohta

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