Vol.04 ~パティスリー モンプリュの世界~

重 Pile up

Vol.04 ~パティスリー モンプリュの世界~ 重 Pile up

香ばしく焼き上げたパイ生地は薄い層が幾重にも重なって、美しい。ざくざくと生地を噛み締め、それがハラリと口の中で崩れる瞬間の幸せを想像するだけで、食欲を刺激される。パイとカスタードクリームを交互に重ねた「ミルフォィユ」。直訳すると「1000の葉」という意味だ。葉っぱが重なり合ったように多層であることを「ミル=1000」という数字で表したのが名前の由来。「崩れたパイの破片が、口の中でカスタードクリームと一体化する。その瞬間にどんな風に感じて欲しいかを考えて味を決めます」と林周平さん。しっかりと存在感があるパイには、普通のクリームでは頼りないと、バタークリームを混ぜて味にボリュームを持たせている。

泡 Whip

Vol.04 ~パティスリー モンプリュの世界~ 泡 Whip

フランス菓子には、卵白に砂糖を加えて泡立てたメレンゲを多用する。粉と合わせて生地にしたり、そのまま焼いて食べる「ムラング」というお菓子もある。使う砂糖の種類や、泡立て方の加減が作り手によって異なり、それが味や食感の違いとなり表れる。つまりムラングのテクニックが高い店は、どのケーキを食べても美味しいのだ。モンプリュの「ムラング・シャンティイー」は、八分立てにしたメレンゲとアーモンド・プードルを混ぜた生地を、2時間かけてオーブンでじっくり焼いたものを使う。サクサクとしたムラングの間に、コクのある生クリームをたっぷり絞って。口の中ですっと溶けて消える軽やかで繊細なお菓子。

詰 Boil

Vol.04 ~パティスリー モンプリュの世界~ 詰 Boil

誰もが一度は食べたことがあるお菓子「キャラメル」は、ごくシンプルな素材で作られている。グラニュー糖と水あめを銅鍋のなかで溶かし、沸かした生クリームと蜂蜜を加えて炊く。最高級といわれるマダカスカル産のバニラビーンズも一緒に煮て香りを移す。焦がさないように丁寧にかき混ぜながら、くつくつと煮詰める。この煮詰めの工程が味を決める。仕上げにバターを加えてコクを出し、艶やかに炊き上がったキャラメルをバットに流して、一晩置く。モンプリュの「キャラメル・ムー」は、口の中に放り込むと、とてもなめらかに溶けていく。まったりと甘いが、上品な甘みなのだ。

炎 A flame

Vol.04 ~パティスリー モンプリュの世界~ 炎 A flame

砂糖を加熱するとパリパリとした飴状になる。このケーキは「サン・マルク」というお菓子。チョコレートクリームと生クリームを、ビスキュイ生地でサンドしたもの。仕上げに表面のビスキュイに粉砂糖をまぶして、熱々に熱したコテを当てる。瞬間的にボッと炎が上がり、細かい泡を立てながら砂糖がチリチリと焼け焦げていく。辺りは香ばしく甘い香りに包まれる。これが冷えると艶やかな飴状に固まる。パリリと儚く割れる薄い飴の下にたっぷりのクリーム。飴も2種類のクリームも、それぞれに甘みが強いものなのだが、この飴の壁が絶妙にバランスを取ることで、種類の違う甘さを引き立て、まとめている。

多くの店を取材するが、そこで出会う「人」が印象に残ることがある。取材の後、何年も会わなくても、ずっと心に残る作り手がいて「そろそろあの人に会いたいな、話が聞きたいな」と思い、再び取材を申し込む。『パティスリーモンプリュ』の林周平さんは私にとってはそういう存在。もちろんお菓子自体の取材をするのだが、その作り方よりも、むしろ林さんがどんなスタンスでお菓子に向き合っているのかの方が知りたいと思う。味はその結果でしかないからだ。林さんが作るフランス菓子は、旨味や香りや酸味など味の輪郭が際立っていて、ブレがない。定番のフランス菓子など、レシピは共通でも、もう一段先の美味しさを感じさせるのは、作り手のお菓子への向き合い方なのだと思う。


写真/太田恭史 Photographs by Takashi Ohta

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