Vol.05 ~薪焼きレストラン Nudaの世界~

無 Nothing

Vol.05 ~薪焼きレストラン Nudaの世界~ 無 Nothing

「皆、頭で考えて食べ過ぎだと思う」と話す坂井剛さん。そのまっすぐな瞳の奥を読む。「難しく考えないで『無』の境地で感じればいいじゃん!」という料理人の心の叫びのように聞こえた。また「感じ取る感性がないならレストランなんて来ないでいいよ」と言われているようにも取れた。本当にそうだ。私はフードライターなので料理について書くことが仕事だが、出された料理を前に薀蓄をたれるほど悪趣味なことはないと心得ている。写真をじっと見つめていると、ミクロの世界まで透き通って、吸い込まれそうな感覚に陥る。余計な味付けを一切施さず、小夏そのものであるべく仕立てた一皿。皮の香りを移したジュレだ。

嘘 A lie

Vol.05 ~薪焼きレストラン Nudaの世界~ 嘘 A lie

嘘をつくことはよくないことなのか?いや、そんなことはない。必要な嘘や、優しい嘘だってあるはずだ。そう信じて疑わない私は、ずるい嘘をついて生きてきた。と、この皿とこの漢字を当てはめた坂井シェフに向き合うと、正直に告白せざるを得ない。ヤングコーンの皮に包まれているのはふわりと滑らかな食感が印象的な自家製のチョリソー。本来は中身を見せないでテーブルまで運ぶ。皮ごと薪の直火で燻して皮の香りを纏わせて味わう仕立て。こんな嘘なら大歓迎。食材も料理観も何につけても真っ正直な坂井シェフの「世の中なんて嘘だらけじゃない!?」という主張。

美 Beauty

Vol.05 ~薪焼きレストラン Nudaの世界~ 美 Beauty

「これは女性でいうなら40代の人って感じ。私が思う美しさ」と坂井シェフ。120~130℃で焼いたトマトを少し冷まして、ぬるい温度で提供する。対比させるようにそっと添えたフレッシュなコリアンダーの小花。元々甘い徳谷トマトは、熟していっそう甘みが増し、じゅわっと汁が溢れ出す。そういえば坂井さん、レストランの料理を女性に例えることが多かった。「20代の女の魅力しかわからないなんて可愛そうね」「みんな綺麗に化粧して着飾った女が好きなのねって思う。化粧がうまい料理人が多い。田舎の素朴な女の子の良さってあるじゃない?」。俺はそんなところでは生きていないと示すかのような美の世界。

力 Power

Vol.05 ~薪焼きレストラン Nudaの世界~ 力 Power

「豆を食べると力が付くと思いません?」と坂井さん。確かに豆は種子なのでたんぱく質をはじめ、栄養素が小さな粒の中にぎゅっと詰まっている。「初夏に緑のものを食べると何だか元気になって、ビールでも飲もうかなって気になるでしょ」と笑う。「日本人は米だけど、ヨーロッパの人間は豆が主食だったりする。彼らは豆をいっぱい食べて屈強な身体を作ってるんですよ」とも。ひと口食べると、青っぽい香りが立っているのがよくわかる。豆の皿をより豆らしく感じさせる一工夫として、底にスナップエンドウのさやで作ったジュースが隠れている。青はよりいっそう青になる。健やかな想いの込められた皿。

今回の4皿は、基本的に店のコースでは出されないもの。漢字を先に決めて、それに合う料理をイメージして作ったそうだ。「美」は鬼気迫るほどに「美」を表している。「力」は豆ひと粒ひと粒の呼吸が聞こえてきそうなほど、生命力を感じさせる皿だ。当サイトの企画段階から『Nuda』の坂井シェフに、この『食の快楽』に出てもらいたいと思っていた。アーティスティックで繊細さを感じさせる彼の料理はこの企画に必ず当てはまると感じたからだ。取材中「きちんと調理してあげないと食材が可哀想」という言葉を何度も繰り返し語っていた。まっすぐな瞳、自分の意見をはっきり述べ、ゆるぎがない。過激に見えてその実とても温かい。それが「この人」と「その料理」を表している。


写真/太田恭史 Photographs by Takashi Ohta

Home > 食の快楽 > Vol.05 ~薪焼きレストラン Nudaの世界~